問題・課題

■公営住宅の管理について

多くの公営住宅を管理している自治体の立場から考えますと、公営住宅が民間に依存してしまうことは自らの職を放棄するに等しい程危険な行為に映るかもしれません。これまで公営住宅を管理することで、あるいは建設をすることで自らの職能を確保していた部分が民間に移るのですから、自らの存在価値を放棄することにもなりかねません。法改正後の民間活用がはかばかしくないのもこのせいかもしれません。とりわけ技術畑の人たちは戦々恐々としている状況下もしれません。

我々は行政内部には居ませんので、自分の問題として捉えることはできません。しかし、行政の役割は次第に変化しているのだと感じています。住宅に関していえば既に住宅ストックの方が世帯数を上回って久しく、すでに1割の余剰がある時代になっています。今回(H10年)の住宅・土地統計調査結果ではさらに余剰が広がると思いますが、そんな時代背景の中で公共が新規に住宅供給をする必要はなくなったように思います。むしろ公共の役割は既存の都市の再編と既存ストックの活用を誘導する役割に進むと思います。つまりまちづくりに多くのエネルギーを費やしていただきたいのです。

まちづくりには想像を絶するエネルギーが必要です。特に、既存市街地の再生などでは多様な利権や居住者の事情がからみ、とても民間では手に負えない事業になります。そして、まちづくりは誰もが期待しているところでもあります。そうしたまちづくり事業の中に住宅整備や改善事業の手法が入ってくるでしょうし、公営住宅対象世帯への施策や高齢者住宅や特定優良賃貸住宅の必要性、借上公営住宅や高齢者向け優良賃貸住宅の事業計画も発生すると思います。まちづくりは幅広いジャンルを持っていますし、偏った知識の民間の技術陣では対応は困難でしょう。

今後の公営住宅の管理は、役所内部での専門官の育成やアウトソーシング(業務の外部化)が進んでいくと思います。公共と民間という区分ではなく、官民共同のネットワークで運営する組織みたいなものが互いの境界を明確にしないで組み合ったシステムをつくっていくような気がします。さらに、居住者や市町村民を巻き込んだNPO的な組織とタイアップして住民サービスが行われるようになると思います。市町村民との意見交換、市町村民アンケートなどを駆使して、現状の住宅政策が利用者や市町村民の支持を得ているかどうかを常に確認しながら現実的に柔軟に対応できる良質な住宅整備が進むように思います。


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■公的賃貸住宅の相互関係

入居所得階層を区分した現行の公的賃貸住宅制度は、特定優良賃貸住宅や高齢者向け優良賃貸住宅の整備がある一定のストックになった段階で統合されると思います。これは、ある程度整備が進んでくると、各々の制度に定まった所得階層と入居者の関係に矛盾が生じると考えられるからです。所得のあるないは世帯の成長変化で変わるもので、その変化に柔軟性がないことに気づくまでに少し時間がかかると考えています。公営住宅しかない状況では、「将来は持ち家を…」をとりあえずの言い訳にしていれば良かったのですが、公的な住宅で生涯を過ごすことができるようになると、所得による半強制的な移動誘導が問題視されると考えられます。

従ってこうした矛盾が明白になるにつれて住宅施策が、建物建設に重点をおかれるのではなく居住を支援する福祉施策化していくと考えられるのです。つまりハードからソフトへの変化過程に日本があると考えているからです。世帯の所得は常に同一ではありませんから、所得の変わる度に住まいも変わらなければ行けないのは不合理です。基本的には同じ場所に住み続けることができることを支援するのが住宅福祉ですから、持ち家、借家に関わらず、所得の変動に対応した住宅支援施策を進めることになるでしょう。

ですから、今後は公営住宅も特定優良賃貸住宅も高齢者向け優良賃貸住宅も同一のシステムの中で管理されることになると思います。むやみに高齢者ばかりが集まるとか所得の少ない人ばかりが集まっているとか、世帯の傾向に偏りがあるコミュニティは不自然ですし不幸です。出来るだけ平等で広がりを持てる社会構造を構築したいと考えるのが普通だと考えています。


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