問題・課題

■公営住宅法の解釈について

公営住宅法の改正があり、国から発信される資料を読み下して理解を高めてきましたが、時々どう解釈したら良いのか分からなくなることがあります。そこで最も有用な資料となるのが『新公営住宅法逐条解説(建設省住宅局住宅総務課 住本靖著)−社団法人商事法務研究会』です。法律改正に携わった本人が、法改正の背景や趣旨を加えて解説しています。いわゆる法の精神を前提とした解釈が出きるので有効です。それに加えてもう一つの参考書といえば公営住宅法改正に伴って出版された『新しい公営住宅制度〜公営住宅の供給〜追補版(監修:建設省住宅局住宅総務課住宅整備課)−社団法人日本住宅協会・財団法人ベターリビング』です。平成8年10月発行になっていますが最初に出たものから追補版として少し変更されているので、これが正式な法律の解説書ということになります。

その他に各自治体には直接国や県の通達などもあるようですが、それらについては民間である我々の及ばぬ所です。情報公開はされているとは思いますが、ホームページなどで容易に入手出きるようになると賛美の声と尊敬の念で歓迎するのですが…。

法改正でもっとも理解しにくかったのが用途廃止でした。とりわけ公営住宅法の改正で、可能になった耐用年数経過後の住宅の用途廃止あるいは廃棄処分について、従来の法の下での指導があまりにも用途廃止の出来ない、ましてや処分などはもってのほかという指導であったにもかかわらず180度異なった解釈になったものだから、にわかに信じられなかったというのが真相。


■新しい公営住宅制度(P.170)
(II)建設大臣の定める期間を経過した公営住宅の用途廃止
 平成8年の公営住宅法の一部改正により、公営住宅又は共同施設がその耐用年限を勘案して建設大臣の定める期間を経過した場合には用途廃止することができるとされた(新法第44条第3項)。この場合には大臣への用途廃止報告は不要である。

■新しい公営住宅制度(P.147)
(2)公営住宅の処分等の種類
 公営住宅の処分等については、次のものがあげられる。
  1 譲渡処分(新法第44条第1項)
  2 用途廃止(新法第44条第3項)
  3 ...(後略)

耐用年数に達した住宅については用途廃止できることは、民間の賃貸住宅を借り上げることが可能になった趣旨とも符合し、郊外に大量に供給して老朽化した団地を処分して既存入居者をもっと便利な地区にバブルで建てすぎた民間賃貸住宅を公営住宅として借り上げて供給することもできるし、その土地から生まれる利益で住宅困窮者に対する家賃補助の形で独自の政策として組み込むことも可能なのです。その場合は公営住宅を公共で建設することもなく、民間賃貸住宅を借り上げることもなく、個々の世帯の経済状況や住宅事情に合わせて補助をするシステムに切り替えることだってできるのです。

社会住宅先進国、福祉先進国は大概この方法を採っていますし、各世帯の生活事情に柔軟に対応しますし、やたら20年間も民間アパートを借り続ける無駄をすることもありません。もちろん、借上公営住宅が役立たないのではありません。バリアフリーの集合住宅の整備を促進するとかコレクティブハウジングやグループホーム的な住宅供給をしようとすると民間の資金で建設や改造なりを施したそれに適した集合住宅を整備することが可能ですし、再開発などでの保留床の活用にも有効な手段となると考えられます。
法律は運用ではないかと考えています。規制ではなくうまく活用することで如何様にも展開できるものだと思います。


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■公営住宅の将来

僕の考え方ですが、住宅福祉の将来は住宅手当になると思っています。今回の法改正で確立されたと考えているのですが、全ての国民に最低居住水準以上の居住を確保しようと思うと、立派な公営住宅を公共が、つまり税金で建設する時代は終わったと思うのです。バブル経済のおかげか全国で公営住宅の品評会の如く、集合住宅のモデルがたくさん出来上がりました。とりわけ熊本県のパフォーマンスは見事だったのですが、建築的には非常に有意義で、質の高い集合住宅が生まれているので評価しているのですが、建築されている建物が必ずしも公営住宅法の前提となる国民全てに最低居住水準以上の居住を確保することと必ずしもつながらない、あるいは居住水準を超えた住宅の提供をしているようにも思えるのです。

本来は、最低居住水準を確保しようとする目的であれば、既存の民間のマンションを借り上げたり、家賃補助をして最低居住水準以上の賃貸アパートに移れるような施策を講じればいいと思うのです。従って公共が建物を建てるか否かとは別の話だと思うのです。今現在、公共が住宅ストックとして持たなければならないものを考えますと、民間が家賃を出しても貸したがらないと思われる人々に対する住宅。たとえば障害者住宅や高齢者世帯に対する住宅、あるいはホームレスや病気がちの人に対する住宅、中高年の単身世帯の住宅などではないでしょうか。こうした世帯に対して住宅供給することを前提にして公営住宅を建設するのであれば、これまでのパフォーマンス建築は必要ないでしょう。むしろ、これまで蓄積した既存のストックをいかに有効に活用するかが議論になっていいと思います。

こうして考えてみますと、今後の公共が建設するあるいは所有する公営住宅はある程度特殊な施設に近い住宅として位置付けることになります。障害者であれば知的障害者のグループホームや授産施設と併用した職住近接集合住宅、高齢者であれば高齢者同士が助け合って住み合うコレクティブハウジング、中高年の単身世帯であれば賄い付きの寮のような集合住宅があると思います。もちろん民間からの借上公営住宅も視野に入れて良いと思います。

そして、一般の公営住宅対象世帯への支援は基本的に家賃補助が原則になるとおもいます。借家であっても持ち家であっても住宅費補助として支援します。借家世帯に対しては家賃補助として既存の公営住宅に居住していると同様に補助します。持ち家世帯については、ローン支払いに困窮している分を、資産を担保として貸し出す形で補助します。いわゆる高齢者に対するリバースモゲージと同様な考え方です。基本は居住環境を変えないで、住み続けられることを支援しようという基本的考え方なのですから。


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