住まいの情報

高齢者のための住宅情報 〜 その2

日本の経済力と高齢者の住まい


 高齢社会が身近に迫っている大問題として捉えられているが、住まいについてはまだまだ「甲斐性論」が消えず、持ち家主義を前提にしてきた政策の経緯から、高齢者への居住の安定確保を社会的役割として認識する基盤が育っていない状況がある。実際、単身高齢者世帯の居住状況は悲惨で、全国的にも民間賃貸住宅に居住している単身高齢者が409,804人(H2年国勢調査)もいるのに対して、1987年度から始まったシルバーハウジングでも95年3月末までの9年間に約1,800戸しか供給されず、焼け石に水の状況が続いている。

 住宅が耐久消費財としての意識が強い背景の中で、住宅が社会資産であるとする議論は不自然で、現実味のないものであるとする意見は大勢を閉めている。戦後築いてきた住宅資産のほとんどが、ぺらぺらの新建材と細い柱で支えられてきた住宅が長期的な使用には耐えられないのは当然で、「何とか持ち家を…」と頑張ってきた住宅は老朽化や設備の進化に対応しきれないで、社会的ストックにはなり得ないでいる。これは木造住宅に止まらず戦後建設された耐火構造の中層住宅にも及んでおり、資産を活用するという考えすら陳腐なものになり兼ねない状況である。日本の住宅がドイツのように百年以上は使える木造住宅ではなく、戦後の応急住宅の延長上の建物としてしか捉えてこなかった住宅政策が、結果として高齢社会に対する居住の不備を招いたことになる。

 働き蜂の日本人が高齢者共々今後も日本経済を支えたとしても、また情報化による新たな産業革命が生産性を高めて労働力を補ったにしても、高齢者の生活を支える年金や介護費用に対する財政的なバランスは非常に困難な状況を迎えると考えられる。それに加えて総人口は頭打ち、そして小規模世帯の増加で世帯増に対する住宅供給は必要になるし、余暇が増加しライフスタイルも多様化すると、住宅も変容して新たな住宅ニーズを生む。つまり、住宅ニーズは多様化する事はあっても止まることを知らない。こうした経済基盤のおぼつかない中では、生産性の少ない高齢者への居住支援よりも多様性のある住宅供給に矛先が進むように思える。従って、高齢者の住宅事情は一向に良くならないと考えられる。

「集める」施設から「集まる」共生へ


 高齢者の住宅支援は高齢者のみを集めることに終始してきた。有料老人ホームもケアハウスもシルバーハウジングも高齢者のみを集めることを進めてきた。高齢者を集中管理する為に都合がよいことを理由に高齢者を集めてきた。

 最近、神戸市で「コレクティブハウジング」の試みが始まった。高齢者同士が助け合うことを前提として進められてきた居住のスタイルで、互いに共生しあうことで自立していこうとする試みである。複数の世帯が個々に部屋を持ち、役割分担しながら共生する住まい方である。特に単身者や高齢者、母子世帯や障害者にとっては自らの「出来ること」と「出来ないこと」がはっきりしているし、相互扶助が形成しやすい。こうした世帯同士の助け合いの場での居住の試みである。こうした動きは単身高齢者同士が仲間で住みあう共同住宅や高齢者を集めて「高齢者下宿」としたりと、多様な展開が始まっている。

 これから来る高齢社会は一時的なものではなく、今後100年以上もの間、人口の四分の一が高齢者となることであり、高齢者を集める施設整備には限界があり不自然でもある。世代が混在するコミュニティで、しかもライフスタイルが共通する人々の共生が理想的な居住スタイルとなる。都市をこよなく愛する人、田舎暮らしが板についている人、郊外でのライフスタイルが身についている人、孤高の生活が身に付いている人、仲間でわいわいやるのが好きな人、全ての人が人として生き甲斐のもてるライフスタイルを豊かに過ごすことが出来る居住環境、それがこれからの住まいづくりの基本となる。その為には「集める」のではなく「集まる」住まいが必要なのだ。

社会住宅システムの研究


 人生の最終ラウンドに入ったら、誰しも安心して居住できる環境を確保したいと思うのは当然のことで、特に居住については自力では確保できない世帯もあり、基本的に社会保障として位置づける必要がある。無論、居住の確保は高齢者だけの問題ではなく、すべての人の社会保障として位置づけることが必要で、その大系の上に立っての高齢者の居住の安定が必要となる。居住の安定は持ち家、借家居住に関わらず全ての世帯に共通した基本的事項として保障することを前提とする。

 そのためには人間として尊厳を守ることのできる基本的な居住のレベルがあるはずで、それは一概に面積でも表現出来ないし、地方によっても時代によっても変化するものである。従って、住宅の保障は居住の保障、生きることの保障に他ならないことを念頭にして以下のように提案する。「人は社会の中で、尊厳を失わず、自立した生活を支える居住の場を持つ権利を有する。」数値目標とはせず、高齢者のみに止まらず、全ての人の権利として位置づけることが大切で、所得や資産の有無に関わらず、全ての人の権利として提唱する。

 全ての人が権利を持つものであるから、全ての人が応分の負担で居住を継続することが出来るシステムがあればいいことになる。持ち家の人も所得が無くなれば建物に手を入れることもできないし、借家の人はお金があっても手すりを付けるのも家主の許可が必要になる現実から解放されなければならない。三世代同居をしたくとも公営住宅では所得が越えてしまい入居すら出来ない現実や高齢者を集めるような公営住宅の入居システムのあり方も変革しなければならない。若い世代も高齢者も障害者も全ての世帯が混在して「集まって」住む環境が必要で、制度により分けられた住宅のあり方を居住のニーズにより分けられた住宅のあり方に変えることを考えていきたい。 それは「社会住宅」として建物を造るのではなく、今あるストックのうまい活用のシステムを研究することで見つかるものだと感じている。


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