住まいの情報

高齢者のための住宅情報 〜 その1

持ち家住宅の高齢者への住宅改造情報


 高齢者世帯の持ち家率は高いが、築後経過年数が過ぎているため老朽化しているのが常である。改善したくても修繕費用の捻出に苦慮しているのが現実で、その改造費用を肩代わりしてくれる自治体が現れ始めた。その代表格としては東京都江戸川区、広島県御調町などが有名だが、高齢化社会の到来という宣伝文句に釣られてか、遅ればせながらも多くの自治体から改造費用の補助が出始めた。

 お金にいとめをつけない江戸川区のようには行かないまでも、懐具合と社会事情にあわせた改造費助成なる制度が始まっている。過疎化の抑止や業務地への転用の抑制など、各自治体に事情はあるにしても、漸く動き始めた感がある。いずれにしてもせっぱ詰まるか、隣がやり始めたからか国や県に推されての感が強いが、確実に始まっている。

 従って、あなたの街に同様の制度があるとは保証できないが、少なくとも何らかの制度を作り始めていることは確か。市民が言わなければ制度も生まれないし、その制度もなかなか制定されないのが役所仕事であることを承知の上で、どんどんアプローチしていくことで成果は上がり、まずは身近な役所にトライ・・・。

 実の所は、高齢者自身が役所(御上)にもの申すことは希で、家族や親族の若い人が代わりに申し出るのが普通。従って、そばにいるおばあちゃんやおじいちゃんの代わりに貴方がチャレンジしてみて、役所の「なんて堅い対応なのか」と思う実感を知ってください。そして、申し出てくれる人の居ない世帯のために、役所自らが高齢者の居住の実体を把握するデータベースを確保して、計画的に住宅支援に取り組むことが是非とも必要になる。

横浜市での助成例
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助成の内容
住宅改造費(注:新築・増築は対象となりません)
○助成限度額 150万円
○助成対象者
市内に居住し、次のいずれかに該当する方で、住宅改造の必要性が認められる方
(1)身体障害者手帳の交付を受けた方で、障害の程度が1級または2級の方が属する世帯。
(2)IQ35以下と判定された方の属する世帯。
(3)障害程度が3級の身体障害者で、かつIQ50以下の方の属する世帯。
(4)介助を必要とする高齢者(おおむね65歳以上)の属する世帯。


持ち家高齢者世帯の資金調達方法


 補助が無くても持ち家世帯には資産がある。日本では土地には経済価値があり、現金化できるので、高齢者の生活を支える資力になる。しかし、生活をしている場を売買することは出来ないので、リバースモゲージ(武蔵野方式)の考え方が生まれた。これは持ち家の資産を担保に融資を受けるシステムで、公的に始めたのが東京都武蔵野市で、「武蔵野方式」と呼ばれ、話題になった。

 これを参考に民間金融機関でも資産を担保にした融資システムが開発され始めているが、実際には相続などの権利関係が複雑に絡み、困難な条件もあるが、基本的に資産価値のある土地に居住している場合、可能である。

借家居住の高齢者への住宅情報


 現在65歳以上の高齢者の居る世帯が全世帯の約30%、その内、単身世帯が約15%で、さらにその35%、つまり全世帯の約4%が単身の借家住まいである。借家居住の単身高齢者の環境は多くの場合自らの力では改善できないことが多く、国の定める最低居住水準にも満たない居住が借家単身世帯の16%にも上っている。高齢者の単身世帯は、若い頃から単身世帯の場合も多く、元々持ち家意識の少ない世帯であり、蓄積が少ない世帯が必然的に多くなる。

 従って借家居住の高齢者の大半が資産はなく、収入も乏しい高齢者単身世帯であることは容易に想像でき、現状の住宅を改善することも民間の老朽化住宅である場合は改善は不可能に近い。自ら快適を求めて移動するにも資金調達はは困難で、現状に甘んじることとならざるをえない世帯を公営住宅で対応するにしても、現状の供給量が全世帯数の約5%の公営住宅では、高齢者世帯に与えられる枠も極めて小さい。

 そこで登場した民間賃貸住宅への公的支援制度がある。「借上公共賃貸住宅制度」で、民間賃貸住宅を公的に借り上げ、家賃補助と建設費補助を行おうと言うもの。高齢化に対しての公営住宅支援では対応できないことと、丸抱えの公営住宅建設よりも民間活力を利用しようとする国策でもあるのだが、貸す方も借りる方もうまく運用することで活用範囲は広がる。特に、大規模に集約された住宅団地での生活よりも、住み慣れた近所での適正家賃住宅が確保できれば、生活の場を変えないでの居住環境の改善が可能になる。

 ただし、こと、役所が絡むと、物事はスムーズに行かない。国に制度はあっても、自治体が計画したり予算化していないと実行には数年かかるのが通例で、最悪の場合は「予算の都合で・・・」と言うこともある。あらかじめ貴方の自治体へ申し入れることがまず必要になるが、大げさな予算化などではなく、金融公庫融資的な身近な金融機関で処理できるシステムにならないのだろうか・・・関係者殿。

日本の単身高齢者世帯の居住実態
(平成5年 住宅統計調査より)

次世代のための住宅に誘導


 高齢者のための居住の確保の基本は、現状の住まいが高齢者にとって安全で快適で経済的であることで、必ずしも高齢者のための住宅に収容するものではない。本当は、老若男女が一緒に居住している環境が本当の環境で、基本的には本物志向を実現することが目標になる。だから、高齢者の住宅を計画する際も、高齢者の居住のみを考えるのではなく、ファミリー世帯や若者や中年の単身世帯も居住するミックス型の集まって住む場をつくることが前提になる。

 「借上公共賃貸住宅制度」もいわば急場のしのぎであり、これを単に高齢者の居住施設として見立ててしまうと、ある時期に取り壊して建て替えるはめになる。だから、これから取り組む高齢者住宅なるものも、高齢者の居住のみに絞らず世代を越えて利用できる住宅として計画することが前提になる。自らの子に家を継承する時代ではなくなった今、次の世代に社会資産としての居住の確保を残すことが大切で、ひいてはこれらの個々の積み重ねが、日本に居住する人々の社会資産となると考える方が全てが平和理にまとまると思えるのですが・・・。


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