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その12


地域独自の高齢者介護のあり方を求めて

●地域で異なる高齢者の家族型

 高齢人口比率の地域差は、県別で見ると島根県21.3%が最高で、最低が埼玉県の9.8%と11.5ポイントの差であるが、市町村別では山口県東和町の47.1%と千葉県浦安市の5.9%の差は41.2ポイントときわめて大きく、東和町ではお年寄りばかりが目立ち、浦安市ではお年寄りに出会わないと言っても過言ではないような状況であろう。

 これ程までの地域差があるので、福祉施策を展開する場合、高齢化をベースに議論が進められることが多いが、もう一つの視点として、家族構成の地域差も考慮することが大切である。

 在宅介護環境を考えた場合、三世代同居や多家族同居の世帯では、日常的に介護を担う家族が同居しているので、ホームヘルプサービスよりショートスティなどの介護人をサポートする支援が多く望まれる。

 反対に、高齢者単身や夫婦世帯などでは、日常的な介護が困難なことからホームヘルプサービスに介護需要が集まると考えられる。
 このように家族型の違いは介護サービス需要の前提となり、それが、地域により大きな較差があるとなれば重要である。

 高齢単身世帯か夫婦のみ世帯(高齢者核世帯)の高齢者のいる世帯に占める割合(図−1)は、最低の山形県22.5%と最高の鹿児島県65.4%では42.9ポイントもの差があり、共に高い高齢化率の県ではあるが家族型の特徴が正反対であり、山形県では三世代同居などの親族同居家族が77.5%と全国で最も多いのに対して、鹿児島県では高齢者核世帯が大半を占めるという状況がある。これは、在宅介護の環境整備の方向にも影響し、少なくとも介護環境が全国一律にならないことを物語っている。


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●老人保健福祉サービスの実態と地域性

 在宅介護環境は、介護保険の実施に向けて、今後、整備を進めていく状況ではあるが、これまでの実績から地域独自の方向を、厚生省から発表されている「老人保健福祉マップ」で見てみよう。それによると、高齢者核世帯にニーズの高いホームヘルプサービスでは、高齢者核世帯比率の最も高い鹿児島県が利用も最高で、ショートスティでは新潟県、山形県、岩手県などの多家族型の県が利用も多く、託老所的な利用が普及していることがわかる。(図−2、図−3)

 このように、高齢者の家族型が在宅介護の内容を決定する要因であり、高齢化の程度のみならず地域の家族事情に留意した介護支援環境の整備が必要である。現状では、先進的な市町村や比較的訪問介護サービスの進んでいる県が実績を伸ばしているが、介護環境整備によるサービス利用の伸びも毎年2割アップと急伸しており、西暦2000年からの介護保険運用に向けて地域独自の介護環境を整備することが望まれる。


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●地域独自の環境整備

 誤解を恐れずに言及すると、比較的多家族の多い東北地方ではショートステイの施設整備が重要で、高齢核世帯の多い九州地方では訪問介護スタッフの育成が課題になるというように、地域の文化圏を基礎とした施策のあり方が検討されるべきで、全国一律の環境整備は避けなければと考えている。さらに都市化や地域の実情に照らし合わせた施策を講じることが必要で、地域独自のニーズに対応し、地域の多様な介護事情に適した施策の展開が必要である。

 介護保険法の実施については、負担方法や給付方法、審査の妥当性、人的資産の確保や受け入れる自治体の介護環境の充実など、多くの整備課題が残されている。こうした中で、地域独自の介護環境を整えることが必要であり、それを支える国、県のあり方も重要であろう。

(秋元孝夫)


この記事は1998年3月発行の「財団ニュース Vol.23(高齢者住宅財団発行)」に掲載されたものです。

財団法人 高齢者住宅財団については「すまい・るイベント推進会議」のホームページ「すまい・Web (http://www.sumai-web.or.jp/)」をご覧下さい。



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