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その13


ヨーロッパと日本の鉄道

〜 「日本の鉄道改革」

 ヨーロッパを旅していて、いつも悔しく思うのは、鉄道が市民に身近にあること。日本のように檻の中に閉じ込めてしまっているのではなく。ホームで別れを惜しんで見送る恋人同士の姿がほしい。入場券を買わせたり、定期券を不正に使用して見送るのでは自由な送迎も難しい。時々、新婚旅行や転勤などでの送別では、新幹線の入場券を買ってわいわいとやられていたり、日曜日の夜、恋人同士の別れ時に新幹線ホームのここかしこで見受けられる程度で、だいたいはホームに入らず改札口に入るときに別れを告げる。味のない話で、発車していく列車に目をやりながら手を振っての別れは殆どない。

entrance.jpg  先日行ったドイツやフランスの駅では、いろいろな別れが見られた。郊外の無人駅に遊びに来ていた青年とホームにたたずむドイツ娘。マインツのホームで妹を送り出す母や兄の姿、ムルハウスからのパリ行きの特急には一人娘を送りに来た父と母の姿、と勝手に想像できる別れの姿が目の前で展開される。ついぞ日本では見られなくなった光景に思う。ホームで分かれるのではなく、改札口で分かれるのは味気ないもの。

 そうは言ってもヨーロッパの鉄道すべてに改札口がないわけではない。大規模な都市の地下鉄や近郊電車には、改札口を利用する都市もある。実際に知っているのは、パリの地下鉄や近郊電車で、自動改札のチェックはあったし、ヨーロッパではないがニューヨークなどでは物々しいゲートが設けられていた。しかし、ドイツでは地下鉄にしても市電にしても近郊鉄道にしても改札口がない。だから広場から高架の鉄道のホームまで直接エレベーターで上がることもがきる。ただし、すべて自己責任が原則であり、検札によって確認することになるので不正乗車に対しては厳しいものがある。

 どうも性善説と性悪説で説明できそうだ。性善説は人間が生まれ持った性格は善であるとした考え方で、不正は出来心であり、自己責任によってコントロールできるとする考え方である。一方、性悪説では、人間の生まれ持った性格は悪であり、自分が良ければ他人はどうなろうとかまわないとする考え方を持ち、不正が可能ならば不正をする性癖を持つとする考え方で、不正が起こらないようにする事が善であるとする考え方である。言わずもがなで、性善説はドイツ型、性悪説は日本型とでも言おうか、もっと広範囲に言えば、性善説はヨーロッパ型で性悪説がアジア型といえるかもしれない。

 社会が混沌としている時代や生活困窮者の多い時代は、どうしても悪がはびこることは社会現象としては当然である。しかし、所得が安定し中流意識の高くなった現状の日本では性悪説的な考え方よりも性善説こそが必要なのではないかと思う。また、規制緩和を政府は叫び、リストラを企業は推進する。その手法の一つとして鉄道会社も自動化ロボット化を推進しており、都市部の改札口は自動化が進んできた。それによる人件費の削減やキセルの防止など、効果も大きいと聞くが、機械の購入費や維持管理費は相当なものになっているはず。

 さて、ドイツ方式と日本の方式との違いは改札口の費用であるとすれば、コスト比較をしてみよう。日本の場合、無人駅もあるのだが小さな駅でも改札口には必ず駅員が必要で、殆どが自動販売機のみの無人駅に替えることが出来れば膨大なコスト減である。駅員のための執務施設など関連施設は不要になる。また、施設の敷地が必要ないならば他の用途に利用でき、特に駅中とあっては商業施設や住宅としても有効利用が可能になる。単に人件費の節減のみならず、土地の有効利用も可能であり、うまく運営すれば旧国鉄が抱えた借金を精算できるかもしれない。

 ロボット化に勤しむより無人化を研究し、リストラした人件費は駅構内を有効に利用するための人材に登用し、より一層の合理化とリストラが可能になるように思う。また、リストラとともにワークシェアリングも進め、加重労働のない社会を形成し、こぞって鉄道会社に就職したいという若者が増えるようになってもらいたいと切に願うものである。

鉄道改革その2 指定席車両の廃止
 指定席の目的は、前もって座席を確保したい人のためにあるわけで、たとえば前日までに登録すれば、どの車輌の座席にでも予約が出来、座席には予約された駅間の表示をして、表示されていない座席は自由席というヨーロッパ型のシステムにすれば指定席車輌がガラガラで自由席車輌が込み入っている場合やその反対などの不合理は解除できる。指定するニーズが高ければすべてが指定席にもなり、その逆であれば自由席になるという柔軟なシステムであれば、本来の指定の意味が生きてくる。そして、指定にするための手続きの費用を指定料として請求することにすれば、必要に応じた経費が入り、繁忙期には指定料金が増加し経営的にも有利に働く。

 特別に車輌を分離する指定席車輌を前提としている日本のシステムは、指定席と自由席の選択でホームを歩くことを強いられるし、指定席車両で立ち席を確保することも出来ず、指定席車両自体が居住環境のレベルアップを売り物にするいわゆるグレードの格付けに使われている。しかし、ニーズの少ない区間では車輌編成も1車輌しか確保できない場合など、喫煙と禁煙が同居するなどの不利益が生じている。これについてはグリーン車輌も同様で、日本的車輌区分システムの限界が見える。

 現状のシステムでは、指定席本来の目的である、定席を確保すると言う目的から逸脱している感は免れない。たとえば高齢者が介護人と一緒に旅行したい場合に、指定席が1席しか空いていない場合、指定席券を持っている高齢者のみが指定席車輌に入れて、介護人は指定席車輌には入れないのが日本のシステムである。なんて馬鹿げているシステムなのか、指定席を確保することが必要なのであり、指定席車輌を選択しているわけではないのだから。しかし、実体は乗客が多く立ち席が増えてくると、指定席車輌にまで立ち席が拡大することはあるのだが、基本的に指定席の意味を考え直す必要がある。

鉄道改革その3 禁煙車両の廃止
 指定席車両の位置が、ホームでの移動をを強いるように、禁煙車両の指定も同様である。たとえばグループで移動中に、同一行動をするためにはどちらかが犠牲を払うことが必要になる。多くの場合、その勢力争いに勝ったほうが優位に立つ。家族旅行で父親が喫煙者ならば、父親が我慢し、取引関係の上位側が喫煙者ならば喫煙車両を利用することになろう。最近では喫煙者が喫煙車両のあまりにも汚染された空気に音を上げて禁煙車両に移っているという話も聞く。本末転倒というところか。

train.jpg  ドイツの車両は、一つの車両の中に喫煙ルームと禁煙ルームがある。列車の編成により多少は変わるが、車両をガラスで区分している。だから前後隣接して座っても禁煙と喫煙が区分でき、仲間が離れ離れになることもなく、互いの権利を守りながら行動を共にすることが出来る。また、社会の趨勢により禁煙派が多くなっても柔軟にパーテーションを移動すればよく、車両丸ごと禁煙か喫煙かで議論する必要もない。

 私も12年前までは喫煙派で、家族旅行の時は不便した。家族で新幹線に乗るときも、当時は自由席の禁煙車両の1号車が比較的空いていたものだから、家族としてはそちらに乗りたがり、私の方はニコチン中毒だから耐えるのに苦労するというパターンがあった。ところが禁煙をして嫌煙家になってしまうと、禁煙車両にも乗れる喜びを感じつつも禁煙車両の少なさと、どうして列車の端に無ければならないかと不満も覚えるようになる。最近では禁煙車両も多くなり、車輌編成も分散しつつはあるが、未だに車両毎のコントロールをやむなきにしている当たりをドイツのシステムを参考にされたらと願うものである。


鉄道改革その4 急行料金の廃止
 急行車両の運行と普通車両の運行で経費がどれだけ違うのか。鉄道経営に参加していないので内容はわからないが、外から見ていると、急行に使われている車両の開発費もすでに償却できているだろうし、普通車と同様の経費であれば、特別の料金を徴収するのはいかがなものか。各駅停車ならばどこまでも乗れるという青春18切符なるものをつくってはいるが、急行の経費が同一であれば急行利用も可能にするべきだろう。

 ダイヤ改正の度に快速電車が多様され、幹線については特急と快速の組み合わせで、特別車両を要する特急と普通車輌の快速という図式が出来上がりつつあるが、地方エリアでの移動では、相変わらず快速も少なく、2時間の各駅停車が空く間に急行が運行されているなど、実質的には急行を利用させ、急行料金をもぎ取る状況がある。たとえば、九州は都城と吉松を結ぶ吉都線、都城発普通列車が7時01分の次は10時50分、その間に8時30分の急行があるが、選択の余地がないダイヤで、急行は快速として運行しないと利用者に対して詐欺まがいの商法といわれてもしょうがないのではないか。

 あくまでも普通車両の運行と急行車両の運行が同一経費であることを前提に話を進めると、急いで相当距離を移動する人が急行に乗り、短距離の利用やのんびりの旅を楽しみたい人は各駅停車を利用するといい。単に現行システムの中で利用を高める方法としての青春18切符は必ずしも十分とは言えないし、急行も含めて特別料金なしで乗れれば、鉄道利用も相乗効果があり、急行料金のマイナスも埋められると考える。もちろん、特別な車両や指定料金については普通車両にだってあって良いわけだし、限定的に考えないで利用者の利便を優先した運行プログラムをたてて欲しい。それがひいてはJR利用の向上に繋がるのだから。

(秋元孝夫)


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