バックナンバー〜オンラインコラム

その11


1997年を振り返る

 1998年を迎えたが、ここで1997年を振り返ってみたい。
 日経の12月27日から31日までの5日間の日本経済新聞社広告局が企画・制作を行った広告記事で、日本経済新聞から抜粋、要約した不動産・住宅に関する97年の話題である。不動産業界や住宅産業の宣伝広告を前提としたニュースソースなので、前向きな話題を探したのだろうが、ニュースの背景を読みとると必ずしも前向きではないようにも思え、多少の偏見も交えながら考察を加えてみることにした。

1/18朝:

 西新宿3丁目西地区再開発、区整備計画案200m級の超高層住宅 


 バブル崩壊で頓挫した再開発の動きが再び始まったという話題であるが、都心部での摩天楼の再開発すら進みにくい環境の中で、地方都市で発生している中心市街地の再生では、それ以上に困難さを露呈している。
 都市の再生を目指して各地で行われている再開発や区画整理が、結果として居住者を郊外に散らしている結果となっていることを、今一度反省するべきで、採算だけで優劣を決定する開発思想から居住都市の再生に向けての方向転換が必要ではないだろうか。

2/ 4朝:

 土地取引の回復へ期待、汐留貨物駅跡地落札 


 都心部に残された最後の遊休地が民間に売却された。大規模な街区割をきめてはいるが、土地利用方針も計画理念も示されない、相変わらずの切り売り分譲で、まちづくりに対する視点が欠如している。これだけの土地を単に民間の経済活動にのみに開放するのではなく、ここに就労したり居住する「市民」に対して好ましい、計画的な指針が前提となるはずなのに・・・。

2/13朝:

 住宅地、下げ幅縮小、三大都市圏地価動向 


 国土庁の発表に基づいて掲載されたニュースであり、下落幅が縮まったことを、あたかも下げ止まりかのように印象づける視点がまぎらわしい。三大都市圏を前提にしてはいるものの「住宅地はマンション用地の取得で横ばい傾向が続き、商業地は立地条件のいい場所を中心に下落幅が縮小する」と評価している言葉の裏には、地価の下げ止まりを期待している節がありありとしている。
 土地のバブルを放任してきた国土庁が、地価の抑制策として土地取引に規制を加え、地価が下降したとでも考えているのだろうか。何時かは破綻するネズミ構に陥っていた日本経済の結末としてのバブル崩壊ではなかったか、国土庁が何を言おうとも地価は経済の均衡で安定し、また上がるときも下がるときもあることは国民の方がよく知っている。

3/ 7朝:

 東京・八重洲の旧国鉄用地、968億円、香港企業落札 


 香港マネーが台頭した1997年初頭の話で、今はアジア全体の経済の落ち込みで、倒産企業や不良債権を持つ日本経済に高株価でストックのあるアメリカ企業が入り込んで来はじめた。
 経済の盛衰は世界をめまぐるしく回り始めている。今や、一国の経済の浮沈ではなく、世界経済の歯車の中で動き始めている。それはもはや国や企業の問題としてではなく、個々の家計の中にまで入り込んでいる。野菜が海外から送られてくる時代である。円の暴落は野菜すら食卓に上らなくなる可能性すら秘めている。

3/11朝:

 東京圏、年収の5.79倍、マンション、大阪圏は4.77倍 


 年収比が下がったことが買い時とでも言いそうな報道であるが、時代は世界的なデフレ傾向にあり、価格が上がる時代ではなく下がる時代に入ることを前提にすると、年収が上がらない状況下での倍率比較は危険であり、インフレ傾向での所得の上昇が見込まれた状況とは全く違うことを認識しなければならない。

3/31朝:

 土地流動化官民で3800億円取得、99年度までに1兆円 


 塩漬けの土地が陽の目を見ないことには金融機関の活性化は困難との視点から、「担保不動産等流動化総合対策」が発表されたが、結局のところ、公共用地として先行取得することになった。しかし、金融機関が抱える不良資産の担保価値は債権額をはるかに下回っており、流動化を促す前提として市場価格より高額の購入か、金融機関が損切りを覚悟で処分することを前提に考えないことには、成り立たない。
 結果として、市場が低迷している今、公的購入の場合は割高な買い物になりやすい。割高な分、税金の無駄遣いにもなるのである。

4/12朝:

 35%増、3月では過去最高、首都圏マンション発売 


 消費税率の上昇を前のかけ込み需要に対する供給量の増加で、見かけ上はマンション需要は増加したように見えるが、売れ残りも増加し、供給過剰感がある。すなわち、第6次マンションブームの最低金利に支えられた最後の花火は消えた。

5/ 1朝:

 96年度住宅着工9.8%増、今年度は140万戸台に減少へ 


 金融機関の不良債権の付け替えを国民に押しつけてきた持ち家取得政策も限界に達した。本来なら持ち家取得の困難な世帯にも持ち家を進めた結果、親からの補助金や退職後もローン残る融資を国民に押しつけてきた金融機関の罪は重い。

5/ 5朝:

 工場立地、7年ぶり増、加工組立型増強 


 世界平和が不安定だった頃は国内生産が最もリスクが少なかったが、世界平和が約束された今、輸送コストと加工組立コストのバランスが工業立地を決定づける。流通コストの割高なものは消費地近くで組み立てられるが、輸送コストの見合うものは組立コストの低い地域で生産される。
 したがって、海外での加工組立が容易なものは海外に移行するので、国内での工業立地が台頭するとも限らないし、就労チャンスが広がるとも限らない。

5/16朝:

 テーマ設定型住宅分譲、住都公団多摩ニュータウンで 


 土地が先にありきで始まったテーマ設定型住宅分譲は、民間ならば土地の金利だけで算盤が合わないはずの企画が今も続いている。申し込みがどれだけあるのかは明らかではないが、参加者募集の宣伝が今も続いている。
 コーポラティブの企画はバブル期の前に公社や公団が仕掛けて完成した前例があるが、苦労多くして成果が少なかったのだろうか、その後は停滞していた。しかし、草の根的な運動が各地で萌芽しており、熊本で共に暮らすことを求めた「もやいの家」などの事例が出始めると、既存土地の有効利用にコーポラティブハウジングをと思い直したようだ。
 しかし、ここは、お役所仕事。土地の金利負担や広告宣伝費はどこ吹く風、とても民間では採算はとれない企画で、結局は国民の税金にゆだねられる国鉄の民営化と同様な結末に思えてくる。

6/18朝:

 住都公団再開発に定借を利用、品川にマンション(850戸) 


 定期借地権マンションが実績を残し、普及しつつある。「つくば方式」など先進的な事例が出始め、実用化に目途が付いてきたのが原因である。しかし、この品川のマンションは日本たばこ産業(JT)と鹿島の個人施工による市街地再開発事業で、建設はJTや鹿島が行う予定であることから、建設費に十分コストを掛けられるはずの、本来の定期借地権マンションの利点が得られない可能性がある。
 「そうなっては定期借地権マンションのメリットはなくなるのですぞ、住宅・都市整備公団様・・・。」

6/30朝:

 東京23区、家賃上昇、所得好転で需給締まる 


 都心部の借家が都心回帰で重宝され始めたのと、段階ジュニア世代の住宅ニーズが親元から都心借家に向いて来たことが主因と考えられる。
 所得好転で需要が喚起されていると考えるのはいささか早計ではないか。

7/20朝:

 輸入住宅受注棟数43%増、国内住宅市場定着へ正念場 


 安くて良いものには需要はなびく。それは当然のことで、国内の住宅産業が品質向上とローコスト化に立ち後れた結果でもある。しかし、円安の動きは輸入住宅のメリットの一端をなくした。
 それにしても、日本国民の西洋文化の受け入れの柔軟さには驚くやらあきれるやらで、日本文化の伝統も世界的市場の中で浮沈する消費財と化した住宅に翻弄されている。明治や大正、昭和初期の西洋建築が今や近代遺産として高く評価されていることを考え合わせると、輸入住宅の動きも日本的文化の一端なのかとも考えてしまう。しかし、思うに「住宅は文化」であり、「将来への社会的ストック」の考え方を定着しないと、ますます日本の住宅は消耗品と化し、住宅地は住宅展示場と化していくだろう。

8/28朝:

 上海で世界一の超高層ビル、森ビル対中不動産事業を強化 


 国内の失敗を海外で埋め合わせるのか、海外投資から撤退する企業が相次ぐ中で、積極的な展開が眼に付く記事だ。日本経済への景気付けにとの内容だが、結局の所、不動産業は着実な住宅ストックを創造する機関ではなく、不動産を取引媒体とした利潤追随の企業であることを明白にした。

9/ 4夕:

 住宅公庫金利0.1%下げ、中旬にも、最低の年3.0%に 


 市場金利が低迷する中で、借換により金融公庫から銀行に流れる住宅ローン融資額は莫大で、金融公庫自体の運営すらおぼつかなくなってくる。金融公庫が市場金利より低いことと良質な(?)仕様で建物の品質を守ることに役立ってきた役割も、市場金利が低くなってしまっては手の打ちようがないのだ。戦後、日本の住宅を支えてきた金融公庫の役割も転換点に来ているのだろう。

9/24夕:

 都市住宅「次は4階建て」メーカー売り込み攻勢 


 なんとも冗談とも思える発想で、あきれ果ててしまう。どこまで小さな土地にしがみついた発想をするのか。日本国民よ、目覚めたまえと言いたい。
 かつて、青山の地に6坪の敷地に地下1階、地上4階建ての戸建て住宅を完成させた東孝光氏の自邸は、いまだに都市に住まんとする意志が明確に現れた傑作として語り継がれ使われている。しかし、万人に住みこなせる代物ではないし、高齢化したらたちまち住めなくなるのは見えている。エレベーターを使わせようとの魂胆も見え見えだが、年金生活の高齢者にエレベーターが似合うかどうか考えれば分かりそうなものだ・・・。

9/30朝:

 上半期のマンション価格、東京圏、横ばい傾向に 


 東京圏のマンション価格が半年前の4567万から4612万へ上昇に転じたことを報じたもので、前回調査が1996年9月から1997年3月まで、今回の調査が1997年3月から8月に売り出された物件調査であることを考えあわせると、消費税前の安売り指向から良質な住宅販売へと販売戦略も変わってきた結果と見るほうが妥当であろう。

12/ 2朝:

 事務所増床、2割が希望、東京・区部人気は八重洲や新橋 


 不況下の波にもまれて、少しは慣れてきた経営陣の意識の反映か、先の展開に向けての拡大指向が出始めた調査結果であろう。好むと好まざるとに関わらず企業リストラが進み、縮小、倒産、廃業と多くの企業が必要に迫られて改造して来たことで、生き残った企業が従来の拡大指向に戻りつつあることがうかがいしれる。
 ここで、八重洲や新橋に人気があるのは、汐留めや八重洲の旧国鉄用地の払い下げ後の開発期待と考えることもできるし、次いで新宿が人気なのも、都心部再開発などでの利便性と新都市イメージに好感しての結果であろう。図らずも幕張や立川など衛星都市や周辺部での業務床は未だに空室が目立っている。

12/ 9朝:

 民間分譲マンション、都が維持、管理を支援 


 集合住宅の管理運営になれていないことが、小さな敷地にこだわった住まい方を余儀なくされている要因にもなっており、マンション管理の公的支援は大きな力となる。
 特に、小規模マンションや借家が多くなったマンションなど管理面での難しさが露呈しており、さらに建物そのものに欠陥があったり、隣接の建物による居住環境の悪化が懸念されるマンションなど、維持そのものに困難さのある建物など、専門家のいない状況下では維持管理は困難である。そこに、管理組合も加えた協議会の設立は望むところで、NPO的な組織として展開を望みたい。

12/21朝:

 「ゆとり償還」に救済措置、住宅公庫返済最大10年延長 


 当初から懸念されていたことが起こっていると誰しも思ったことである。当初5年間は金利だけで、所得が上がった6年目以降に元金支払いが始まるシステムである。バブル前の金利5.5%当たりでは、35年ローンとして2000万の元本に対して9.2万円の月払いが均しで11.4万に24%アップであったのに対して、3.0%の低金利時期には借り入れも増え、4000万の元本に対して10万が16.8万円に68%もアップすることになることなのだ。
 銀行も公庫も金融を扱っている者にとっては常識であろうことが、購入する個人には理解されないでいた。いや、意識的に隠されていたと言っても良いぐらいに、バブルに浮かれていたのだろう。
 個人にとっては破産は深刻であり、住宅ローンでの自己破産は家族の崩壊であり、救うべきとは思うが、まじめな者が馬鹿を見ることだけは避けたい。

(秋元孝夫)


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