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その10


離婚の増加と教科書検定

 「離婚、昨年は20万組突破(朝日新聞)」、「離婚、20万組超す(日本経済新聞)」と、1997年6月30日の新聞紙面をにぎわせていた。他紙を確認してはいないが、概ね重要なニュースソースとして捉えられていたと思える。
 タイトルからすると『20万組突破』がセンセーショナルなこととなっているが、実は離婚を受け入れる社会が生まれ始めていることをセンセーショナルに伝えるために数で表現したのであろう。20万組であろうが30万組だろうが、約3000万の既婚世帯数の中では1%であり、特に驚くことではない。しかし、離婚が特別なものでなく市民権を帯びることはこれまでの日本人の価値観を変革することであり、その傾向が進めば家族社会そのものに大きな影響を与えることが予見されていることをタイトル化したものであろう。

 離婚の結果生じる環境を受け入れる社会が成り立つと、さらに離婚は増加する。バブルの崩壊で急速に減少した離婚件数の変化は、離婚しても経済生活が不安となれば、見通しがつくまで我慢しようと考えた結果である。したがって今回の急増もバブル期の我慢の反動だと考えることも出来よう。ただ、統計的にみれば離婚の増加は世界的な傾向であり、日本でも1960年ころから次第に増加している背景や、男女機会均等法などの浸透で女性の社会進出が目覚ましいことなど、さらに離婚率は高まると想定できる。

 新聞記事の内容は、離婚件数が最高になったことを伝え、熟年離婚が増加したことが全体の離婚率の増加に影響したとの背景を記述している。これはまた、昨年までの厚生省発表の話題の中心だった出生数の減少、すなわち人口の減少の話題から世帯の増加の話題に移ったことでもある。合計特殊出生率は相変わらず低位で、1.43と前年とほぼ同様の結果となり、将来人口の低下は避けて通れない中で世帯分離による世帯数の増加が、さらに世帯の小規模化や多様な世帯型が現実化することを予見している報道でもある。

 その一方、文部省の教科書検定で高校の家庭科教科書4冊が不合格となった出来事で、にわかに家庭や家族のあり方が問われた格好になった。単身世帯は家庭ではないのか、子を持たない夫婦は標準的ではないのかなど、多様な家族の形態があることを記述した点に対して不適切だとする評価が加わった。

 厚生省の白書である「厚生白書(平成8年版)」では”戦後日本の家族変動”をおおきくとらえ、「核家族世帯や単独世帯の増加に見られる家族形態の多様化だけでなく、家族の姿も多様化した。・・・(中略)・・・子供を持たず、自分たちの生活を尊重しようとする若い夫婦がDINKSと呼ばれるようになって久しい。また、必ずしも結婚にこだわらない人々も増えている。・・・(中略)・・・他方、単身赴任の増加は、別居して生活する家族の姿を日常的なものとした。離婚、再婚は増加する傾向にあり、結婚に関する意識も変化しつつある。家族の機能として愛情や安らぎなどの精神的機能を重視する意識の高まりの中で、家族は、その生活を保持するためというよりも、精神的な満足を得るためのものとなりつつあり、したがって家族の姿もそれぞれの生き方に従い多様化しつつある。」と、明確に家族の多様化を説いているにも関わらず、文部省はこれを否定した。

 本来、家庭科のあり方は将来を適切に見据える力を育てる教科であり、住まいについても先進的な事例を見聴きすることで将来の住まいづくりに、これまでの古い習慣から脱皮させ健康で快適で安全な生活が出来るよう将来への夢を与え、戦後のモダンを追求した場でもあったはず。それが、歴史の教科書にでも掲載されているような時代の流れを逆進させるような家庭像を子供たちに教えること事態、現実と乖離した高校生達の同意を得られない白けた授業になりそうである。

 特に、国際化の波の中で人々の家庭観は急速に変化している。長男長女化の結果、娘を嫁にやり、若くして孫を持つ50代の祖父母の意識は、亭主と別れて戻ってくることを期待している節もあり、出戻りには敷居をまたがせなかった、あの時代とは価値観が180度変わっていることを認識するべきである。

「結婚しても相手に満足できないときは離婚すればよい」という考え方について
女性の場合(男性もほぼ同様)
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 離婚についての価値観も急速に変化しており、「結婚しても相手に満足できないときは離婚すればよい」という考え方が急速に根付き始めており、予想ではすでに半数を超えた人々が離婚是認の方向へ意識改革していると想定できる。前記の厚生白書では、わが国の婚外出生率が戦後ほぼ1%前後の低い水準を保っていることにもふれ、「スウェーデン50.4%、デンマーク46.8%、フランス34.9%、イギリス31.8%、カナダ23.1%等多くの国でかなり高率に達している。」と紹介した上で、出産が先か結婚が先かの価値観の違いが日本との差を生んでいると結んでいるが、実際は必ずしも結婚という形態をとらないでも子育てが出来る社会福祉の整ってきている福祉先進国に婚外出生率の増加が見られ、事実こうした非婚世帯が多くいることが各種の書物で紹介され裏付けられている。

 日本でも未曾有の高齢化社会を支えるために、少子化を抑止するための施策が検討されており、女性が子を生み、社会が育てる環境を支援する方法が模索されている。こうした施策は多くの場合、子育てに結婚を条件としなくなる傾向があり、結果として婚外出生を増加することにつながる。こうした事実の積み重ねは、やがて結婚に対する価値観を変化させ、これまでの日本人の結婚観が過去のものとなることもそう遠くないと考えられる。

 実際、「○○家」と「××家」の結婚式も形骸化しており、家と家の結びつきは希薄になって来つつあるし、結婚しないで同棲をすることは日常化している環境の中で、基本は本人同士の結婚を前提に婚姻がなされるのが当たり前になっている時代である。さらに国会では夫婦別姓の法律化が準備されている大きな時代の流れの中で、旧態善とした結婚観や家族観を後生大事にすること事態、世界がグローバルに動いている時代に乗り遅れる日本人を作りかねない。家庭科に対する価値観の綱引きも、離婚増加に対する驚きも、人々の家族観の変革が迫っていることを占うものである。



シニアの再婚ふえてます

 朝日新聞の特集記事で、『長年連れ添った夫婦の「熟年離婚」が過去最大となる一方で、シニア世代の再婚が増えている。・・・』の書き出しで、第二の人生を共にするパートナー探しに余念のない中高年シングルの事情を解説している。『残りの人生、ひとりはさびしい』ので、「家族への説明」「夫婦の財産」「埋葬する墓」を明確にして再婚をすることが望ましいとの評価も交えて・・・。

 手前味噌になるが、秋元建築研究所では公共が供給する高齢者住宅「シルバーハウジング」の計画のお手伝いをしている。賃貸住宅に居住し、安心した居住が出来ない高齢者世帯に、専任の管理人を置き、緊急時の対応や安否の確認などの生活支援のある住宅を供給しようとするもので、公営住宅団地の建て替えなどに併設して全国で展開されている。

 この住宅は60才以上の高齢者が単身あるいは夫婦で入居でき、自立した生活が可能なら永住も可能な安心居住の公営住宅で、むろん家賃は平成10年度からは公営住宅法の改正により、所得に対応した応能応益家賃が適応されることになり、年金生活の高齢者世帯であれば支払い可能な最低家賃で居住することが出来る。そして一度入居すれば基本的には病気で長期入院にならない限り生涯を送ることができる他、公的な住宅であることから民間のような追い立てを迫られることもなく、高齢者の賃貸住宅居住の難しさを改善してくれる住宅である。

 ところがこの制度の考え方には矛盾点も多い。たとえば夫婦用と単身用の部屋の大きさを分けて供給することが当たり前になっていることから、夫婦の片方が亡くなった場合は単身用に移ることが条件になっているのに、現実は当初に入居した夫婦世帯の内、亭主は先に亡くなってしまうものの、単身用に入居した女性達は長生きで、単身用の空きがないので夫婦用に単身の状態で長期に住むことになってしまっていることや、単身用はあくまで一人の入居しかで認めなく、結婚も出来なければ兄弟での共生も出来ない、高齢者の居住のニーズに必ずしも柔軟に対応できない制度内容になっているのが現状である。従って空きがない状況では夫婦用に単身が住み続ける不公平を生んでいるし、家族の移動にも制限を与える制度がまかり通っている。

 供給が需要に追いつかないこと、ストックの不足が新規募集の出来ない一つの原因ではあるが、基本的に自由のない運用システムで供給を続けることはさらに問題を大きくし、引き延ばすことでもある。たとえ単身用の住宅が空いたとしても、二人で生活した住まいを簡単に引っ越せというのもつらいもので、二人用と一人用を作ることが人間性を無視した措置としか言いようがない。言い換えれば二人用から一人用に移らせるシステム事態、高齢者に安心した「住まい」を提供しようとするシルバーハウジングの考え方が、実は収容所的発想に依っていると疑われてもしょうがない。

 こうしたこともあり、私たちはシルバーハウジングに単身用を作らない方針で臨んでいる。夫婦が死別して単身になるだけではなく、熟年離婚だって結婚だってするし、その度に一人用や二人用に住まいを変えなければならないのは、安心して居住できる環境を支援するシルバーハウジングの本意を外れているし、人間の尊厳を無視した行為でもあると考えている。『残りの人生、ひとりはさびしい』のだから、一人になったとしても住み続けられ、元々単身の人や離婚や死別で単身になった人も自由に結婚できるシルバーハウジングの供給が前提に計画されるべきものだと思う。

(秋元孝夫)


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