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その5


政府の規制緩和策、容積率緩和にもの申す

 都心の規制緩和策として打ち上げた容積率緩和策は、日本経済を支えるためのカンフル剤であることをはっきり宣言すべきである。規制緩和の目的が金融機関や不動産業者やゼネコンが保有している土地の流動化を促進することを第一目的とした容積緩和であるのは当然了解しているはずなのだから、都心居住のニーズに対して安い住宅の供給を促進するなどとうそぶいたことを言うべきではない。

 都心居住は容積緩和をしなくても進んでいる。地価の下落で供給ものびているし都心の良さを好む人は思い思いの価値観で集まってきている。中古のマンションを買う人や狭い敷地にのっぽな一戸建てを建てる人、仲間で住もうと集合住宅を企てたり、都心の利便性を享受しようと臨海副都心に移る人もいる。バブル経済が弾けた今だからこそ、それぞれが住まいとする場を自らの価値観で選択して移り住み始めたし、出来るようになった。

 ところが亀井発言は都心居住への動きに水を差した。
 ただでさえ日照条件の悪い都心に住もうと、少しでも日当たりのいい中古マンションを探しても、南隣に高層マンションが建ってしまうと何にもならない。小さくても一戸建てをと企てていた人も敷地廻りの将来的な土地利用が想定できなくて、計画は中断せざるを得ない。むろん仲間で住もうと思ってた人も地価が上がるまで地主は売ってくれない、結局は地価の高騰で都心居住が出来なくなってしまうのが落ちである。それなのに容積率緩和が都心居住を進める方策だといえるのだろうか。はたして、これが既存の塩漬けの土地の流動化の目的でなくて何であるのだろうか。

 街に安心して住むためには、安定した暗黙のルールに守られていることが必要である。ルールがたびたび変わるものだとすると街の生活は不安定になりまちづくりは混乱してくる。日本の街がヨーロッパ諸国と同様な歴史がありながら、統一感のないものになっていることは亀井大臣が発言した規制緩和をこれまでたびたびやってきたからに他ならない。これでは良質なストックは残らないし、いいものを遺そうとする考え方すら育たない。スクラップ・アンド・ビルトの無駄を国家的に押し進めているとしかいいようがない。

 今後の社会は高齢化に対する社会負担が増加し、高齢人口の増加で労働生産性が低下することがわかっているのに、今まで作ってきたストックを無にしてしまうことは出来ないのだから。今後は良いストックを着実に残して次世代に繋げることが本当の政策だと考える。従って都心居住の推進の方法は容積緩和ではなく、今ある良質な資産を活用しつつ長期にわたって住み続けられる街づくりを研究することであり、国が容積緩和を言うのではなく、住民と自治体の一体となった街づくりの青写真に対して支援する役割を国が担い、適正な税配分を行うことが国の仕事として位置づけるべきだと考える。

 たとえば防災的に危険な街全体を再生するための計画づくりを、自治体と住民が力を合わせて作り、事業化がスムーズに進むような支援制度を作り、すべての人が計画された街で豊かに快適に住めるような多面的な支援を国がすることが先決問題だと考える。街づくりは市民を交えて官民協力の下で街づくりを進め、それを国が支える構図が理想的な姿だと考える。容積率の話はその結果として柔軟に判断されるべきで、当初から容積率だけを議論したのでは本当の意味の街づくりにはならない。大切なのは数値指標としての規制緩和ではなく、街をどうするかというビジョンであり、ビジョンに裏打ちされた街づくりの動きなのだ。

 もうがむしゃらに働きたくはないし、これからは今あるものを大切にしながらゆったりと豊かになるための工夫を繰り返しながら生きていきたいと思っている。と考えるのは私だけなのか・・・。

(秋元孝夫)


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