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その4


高齢者の住宅問題

〜 「よりよい暮らしのパスポートとして」

●高齢者の住宅が特別視されている時代の高齢者は不幸である。

old.gif  高齢者にも多様なライフスタイルがあり、経済基盤も社会背景も異なる生活の場がある。社会的役割も個々に違うし、生き甲斐や価値基準も多様である。にもかかわらず高齢者の居住を支える場として、高齢者の所得や資産を前提にした「施設供給」が先行している感がある。ケアハウスにしろシルバーハウジングにしろ、高級な有料老人ホームにしろ、高齢者の住宅には違いないが、実際は高齢者の経済状況のみに焦点を当てた収容施設の感が免れない。ましてや一度入居したら経済的に出られなくなる有料老人ホームなどの施設運営も現代版の収容所でしかないと言えよう。

 「高齢者」を「人」と置き換えて考えると、「人」の生活に特別の施設での居住が前提となることはないし、自らの住まいでの生活を望むのが普通である。「人」は社会参加をし、多様な世代の中での生活をし、自らの住みたい場所を選択して居住する。それが当然であり、そのほかの選択はない。

 高齢者が施設に頼ろうとするのは、万一の不安に対しての予防策が現状の環境にないからであり、その施設が生活に適しているからではない。日常生活の場所に安心できるシステムがあれば、なにも施設に入る必要はないし身近なコミュニティを失う選択をすることもないのだ。

 理想は個人々々が生き甲斐の持てる社会で生活を維持できることである。すなわち、収入のあるなしに関わらず、生き甲斐のもてる社会参加と日々の糧の保障、そして居住の安定である。健康なものは社会参加の役割があり、収入や蓄えのあるものはそれに見合った生活が得られ、自らの生活を支えられないものには基本的な援助が約束されている社会である。すなわち「高齢者」は「人」として住みたい場所で住む権利を持っているし、人によって様々な住まい方があることを保障することが基本になる。

 高齢者の居住実態をみると、都市の旧市街地には高齢者が集中して居住し、また山間部や農村部に高齢者が目立ち始めている状況がある。都心部では借家世帯などの高齢化が進んだ結果、高齢者が増加した経緯があるが、都市でも田舎でも共通していることは、子世代が世帯分離して親元を離れていることが、高齢者のみの世帯を増加させる原因となっている。

 周りの目から見ると「旧市街地や田舎には多くの高齢者が取り残されている」と見られ、あたかも高齢者のみが置き去りにされた様に受け止められがちだが、実は高齢者のみが住み続けられる環境でもあるのが旧市街地や田舎でもある。たとえば旧市街地での生活は徒歩で全てが賄える場所であり、物忘れが多くなった頭でも、昔からある店や友達の家はちゃんと心の地図に記録している。道も狭く人混みがあることで自動車もスピードを緩め、人とふれる機会も多い。高齢者には都合がいい環境である。

 一方、小規模な地方都市では、高齢化率は高いが人口が安定している分、比較的高齢者への福祉の充実が進んでいる。ほとんどの高齢者世帯が持ち家で、在宅のままでの居住支援は住宅が確保されているだけ容易だし、地域のボランティアも始まっている。また、借家住まいの高齢者にとっても、少ない世帯に対する居住の確保は公的賃貸住宅で十分対応でき、基本的に在宅居住への生活支援に専念できる環境が整いつつあり、こうした環境を求めて都会からの転入も現れはじめている。

 都会で住むのも田舎暮らしを選ぶのも高齢者のライフスタイルを前提として選択されることで、自らが理想とする居住のスタイルを選択することになる。好んで田舎暮らしをするのではなく、やむを得ず田舎に暮らすのは不幸であるし、都会に呼ばれる不幸もある。中には施設の生活が気に入って入居する人もいるが、やむを得ず施設を選ばなければいけなかった人は、やはり不幸である。子供世帯との同居が自由を奪うこともあるし、二世帯同居が必ずしもベストではない。基本的なことは、本人にとってのライフスタイルが謳歌できてこそ居住の安定につながり、よりよい暮らしが確保できることになる。

 国でも地方自治体でも高齢者の居住を真剣に取り組みはじめている。多くの施策が試され多様な事業が進んでいるが、基本は「人としての住まい」であり、住み続けることのできる「居住支援」である。住宅に居住するのは生身の人間であり、刻々と変化する身体を持った生き物である。身体の変化にあわせて居住の場所を変えることを前提とした施策は不自然であり、高齢者を人間として扱っていないことに他ならない。高齢者のライフスタイルに着目し、人が中心の住宅施策を望みたいし、身体機能の変化に対応した在宅での居住支援体制の確立が課題である。

 こうした環境を実現するためには、高齢者のみの居住を視野に置いた施策では限界がある。全ての人への居住支援が前提となり、障害者も母子世帯も多家族世帯も単身世帯も一様に基本的生活基盤としての「住」の保障が前提になる。若者にも高齢者にも全ての世代に共通した問題として住宅をとらえることが必要で、住宅を全ての国民に基本的に確保される社会的ストックとして認識する事が重要になる。住宅のストックが社会的資産として確保できれば、いずれ居住不安は解消され、高齢者のみならず全ての世帯に共通の保障となりうる環境が実現する。

(秋元孝夫)


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