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その2


社会住宅実現の第一歩は高齢者の居住の安定

●戦後の住宅政策

 戦後の日本の住宅政策は、金融公庫と公営住宅の二本立てで住宅建設を押し進めてきたが、公共の直接供給の公営住宅については1973年と1979年の二度に渡るオイルショック以降、新規供給は停止し、建て替えによる更新と共に多少の供給増が細々と続けられている状況で進んで来た。一方、持ち家については戦後一貫して持ち家政策を進めてきたことで、市部でも借家比率を大きく持ち家が上回ったものの、現在は持ち家借家とも供給過剰の状況が続いている。

 量の供給から質の向上へとバブル経済のピークまでの10年余りの間、持ち家を牽引として住戸規模も着実に拡大してきたが、バブル経済の崩壊以降、高齢化への不安やポストバブルへの不安感、史上最低金利という持ち家願望への甘い誘いから、世帯規模に必要十分な住宅規模住宅の取得ではなく、世帯の現状の所得でも買える住宅取得への動きが、「狭小でも持ち家取得」の潜在意識をあおっている。

 ところが、現状はデフレーションが始まっており、持ち家より賃貸住宅が、消費より貯蓄が価値を生む時代に入ってきており、市街化区域内農地への宅地並課税や金融緩和で賃貸住宅供給は進むものの、地価の下落や最低金利の条件下でも質の向上を求める買い換え需要の持ち家購買意欲は停滞気味で、価格変動に鈍感な公共主導の高規格分譲住宅は売れ残りが続出している。さらに、住宅のみならず、事務所ビルにあっても空き家傾向は顕著で、大規模商業ビルの新築の陰で小規模な事務所ビルの空き家化が進んでおり、事務所ビルから居住用途への改造なども進みつつある。


●多様化する住宅ニーズ

 今始まったデフレーションは東京の物価が世界的な水準に近づくまで続くと考えている。東京がニューヨークの1.5倍の物価である現状を市場開放や規制緩和などで淘汰されることが必然的に行われる。実際的に調整局面に入るのに今後10年以上はかかりそうである。つまり西暦2005年までに物価は世界的レベルで安定し、生活物価の安定とともに住宅についても世帯数の増加しない段階に入り、小規模世帯が増加し、郊外でのファミリー世帯の一戸建て願望のみならず、市街地中心部での快適な居住のニーズが高まっている。農山村からの都市移住も安定するのが日本の人口が頂点に達する2010年頃であると考えられ、人口規模が下降線を辿り始めるとともに世帯数も安定し、住宅ストック数の増加も不必要になる時期になると予想されている。

 こうした経済や人口世帯の動向は、持ち家と借家のバランスも大きく影響する。借地借家法の改正や公営住宅法の改正などにより、持借の区分が曖昧になりつつあり、民間の賃貸住宅を借り上げる公営住宅の普及で、公的賃貸住宅と民間賃貸住宅の区分も極めて不明確になり、今後の住宅の形態はさらに多様化すると考えられる。持ち家といえども期限付きの借地を前提とした定期借地権付き分譲住宅や、民間賃貸住宅を公的賃貸住宅として活用する特定優良賃貸住宅の供給などは始まっているものの、より生活実態にあった住宅供給が、新たな世代の住宅ニーズに支えられて登場すると考えられ、今話題のグループハウジング(コレクティブハウジング)やヨーロッパ型都心居住の住宅供給などもあらたな展開を迎えると考えている。


●隙間の事業化が可能

 こうした背景を促す住宅政策の流れは、国の一方的な住宅政策から民意を反映した住宅政策にならざるを得ない背景があり、さらに地方への権限の委譲など地方分権が叫ばれ、規制緩和が進み、地域性が尊ばれることになってくれば、より一層、民間と公共の融合が図られなければならないことになる。そこで必要になってくる機関が、民間と公共を結ぶ潤滑油的役割を担う組織で、公共の制度や優遇措置を民間が十分活用することが可能なようにする橋渡しの業務である。国が作る新しい制度に対して、私たちが「これは使える」と思っても、地方の行政は腰が重く現実的な行動にはなかなか出ないのが一般的で、私たちもこれらに火をつける役割を担えたらと考えている。

 まず手始めに「特定目的借上公共賃貸住宅制度」を活用した地域分散型(地区分散型)の高齢者世帯の居住施設整備の手助けをしたいと考えている。「特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律」に位置づけられたことで、先進的な東京都のシルバーピアが全国的に制度化され一般化された事になるのだが、全国的な展開に対しては未だに未成熟であり、ハードルも多い。公共主体のシルバーハウジングプロジェクトが遅々として歩まない現状からすると福祉型借り上げ賃貸住宅も困難な足どりを辿るとする意見もあるが、実際的にはすでに実施事例も多く、官民相互に有利な制度であることが認知されるにつれ普及する制度であると考えている。

(秋元孝夫)


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